その気分の落ち込み、食事に原因があるかも!?
なんだか理由もなく気分が落ち込む、うつ傾向になってしてしまう。
その原因、もしかしたら “隠れ栄養不足” かもしれません。
正直なところ、心と身体は複雑に影響し合っていて簡単には説明がつきません。しかし、可能性のひとつとして栄養の分野から考えられることは、特定の栄養素の摂取不足です。
10か国からの21個の研究のレビューによると、健康的な食習慣は、気分の落ち込みやうつのリスク削減に関連があります。
ここでいう健康的な食習慣とは、果物や野菜、精製していない穀類、オリーブオイル、魚、低脂肪の乳製品、抗酸化作用のある食品を摂取する習慣です。
反対に、欧米化の食習慣(赤身肉や加工肉、精製された穀類や菓子、高脂肪の乳製品、バター、ポテト)は気分の落ち込みやうつの大幅な増加に関連があります。
また、ある臨床研究によると、不安や気分の落ち込みと以下の栄養素の欠乏に関連があるとされています。
- マグネシウム
- 鉄
- 亜鉛
- ビタミンD
- ビタミンB6
- ビタミンB12
- 葉酸
ファストフードや冷凍食品、ヴィーガンやベジタリアンなど食が多様化する中で、食習慣による特定の栄養素の不足に配慮する必要があります。
手軽にサプリメントから摂ることもできますが、サプリメントの明確な効果を立証している研究は少ないのが現状です。
今回は、メンタルヘルスにおける各栄養素の特徴や関連、多く含まれる食品、簡単レシピを管理栄養士が紹介します。
多量ミネラル
マグネシウム
特徴・メンタルヘルスとの関連
マグネシウムは、体内で約300種類の酵素を活性化させる重要なミネラルです。
神経の興奮抑制、エネルギーをつくる助け、血圧の維持に関わっています。50~60%は骨に貯蔵されているため、摂取量が少ないと骨から遊離します。
サプリメントなどで過剰に摂りすぎると下痢を引き起こします。一方、不足すると吐き気、筋肉のけいれん、ふるえ、眠気、脱力感、食欲不振の原因になります。
多く含まれる食品

マグネシウムは、精製度の低い食材(玄米、全粒粉、豆類、海藻、ナッツ)に多く含まれます。加工食品や外食はマグネシウムが低くなりがちです。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 340 | 380 | 370 | |
成人女性 | 280 | 290 | 290 | +40 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

木綿豆腐1/2丁(150g)に約130mg、アーモンドひとつかみ(30g)に約100mg、納豆1パックに約50mg、玄米ご飯1杯(150g)に約50mg含まれます。
参考レシピ


微量ミネラル
鉄
特徴・メンタルとの関連
鉄は、赤血球中のヘモグロビンの成分で、酸素の運搬に重要な役割を担っています。
筋肉中の成分でもあります。不足すると貧血になることはよく知られていますが、その陰に疲労や息切れ、冷え性があります。
ある臨床報告によると、鉄欠乏は疲労感やうつ状態を引き起こすことが知られています。鉄欠乏性貧血は、例えば無気力、抑うつ、運動時の急激な疲労感などと関連しています。
多く含まれる食品

植物性の鉄は、豆類や大根菜、ほうれん草、ひじきなどに多く含まれ、ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高まります。
動物性のヘム鉄はレバーに特に多く含まれますが、肉類や魚介類を偏らず様々な種類から摂るのがよいです。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 7.0 | 7.5 | 7.0 | |
成人女性 | 10 | 10.5 | 10.5 | +2.5~8.5 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

茹でほうれん草小鉢1杯(70g)に約1.0mg、乾燥ひじき大さじ2(10g)に約2.8mg、あさりの水煮1缶(60g)に約11.0mg、豚レバー1切れ(50g)に約13.0mg含まれます。
参考レシピ


亜鉛
特徴・メンタルヘルスとの関連
亜鉛は、細胞の産生や増殖に関わり、発育や傷の回復促進を担います。
骨や筋肉の成長や修復のほか、正常な味覚を保つためにも欠かせません。
ホルモンバランスを整えてくれる効果やがん予防などさまざまな効果が注目され、さらなる研究が進められています。
ある報告によると、少なくとも5つの研究において、臨床的なうつ病の人々では亜鉛の血中濃度が低いことが示されています。さらに、亜鉛の経口補給はうつ病の治療効果に影響を与える可能性があることが、介入研究によって明らかになっています。
多く含まれる食品

亜鉛は、カキや鯖などの魚介類、チーズ、大豆、アーモンドなどに多く含まれます。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 9.0 | 9.5 | 9.5 | |
成人女性 | 7.5 | 8.0 | 8.0 | +2.0 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

牡蠣3個(60g)に約13.2mg、サバ缶1缶(150g)に約2mg、チーズ2個(60g)に約2.2mg、アーモンドひとつかみ(30g)に約2.9mg含まれます。
参考レシピ

ミネラルのまとめ
メンタルに関連があるとされるミネラル3つは、身体の土台となる血液や骨、筋肉に関連する栄養素です。
血液の生成や運搬がうまくいかなかったり、足りない部分を補うために骨から溶け出たりすることは避けたいところです。
また、欠乏症が貧血、疲労や息切れ、冷えであるミネラルが多いことから、これらの症状はたとえ軽度でも慢性化すると精神的なストレスになることも考えられます。
ライフステージの変化で貧血になりやすい女性とうつの割合など、性差を含めた研究が注目されます。
脂溶性ビタミン
ビタミンD
特徴・メンタルヘルスとの関連
ビタミンDは、カルシウムやリンの吸収・沈着に関わり、骨や歯の形成に重要な働きをします。また、筋肉の維持・増加にも関与します。
脂溶性ビタミン(A、K、E、D)は文字通り水に溶けない性質があり、血中ではなく主に脂肪組織や肝臓に貯蔵されます。
油で炒めたり、ドレッシングをかけたり脂質と一緒にとると吸収されやすいといわれています。
ただ、尿で排出されにくいことから、サプリメントなどで過剰に摂りすぎると倦怠感や食欲不振などが起こるといわれています。
多く含まれる食品

ビタミンDは、魚類やきのこ類に多く含まれます。野菜や穀類、イモ類にはほとんど含まれません。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 9.0 | 9.0 | 9.0 | |
成人女性 | 9.0 | 9.0 | 9.0 | 付加なし |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

鮭1切れ(80g)に約25µg、さんま1匹(100g)に約15µg、干ししいたけ(天日干し)2~3枚(5g)に約2.5~4µg含まれます。
参考レシピ


水溶性ビタミン
ビタミンB6
特徴・メンタルヘルスとの関連
ビタミンB6は、たんぱく質からエネルギーを作る過程で必要です。
心の安定ホルモン「セロトニン」をはじめとする4つの神経伝達物質の合成にも関与し、睡眠、行動、気分、記憶、エネルギーなど脳機能において重要な役割を果たします。
抗炎症作用や免疫機能の維持、皮膚の正常化にも不可欠です。不足すると皮膚炎や口内炎、貧血、脳波の異常などが起こります。
多く含まれる食品

ビタミンB6は、まぐろやさんま、鶏肉、バナナ、さつまいも、納豆などに多く含まれます。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | |
成人女性 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | +0.2 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

赤身のまぐろ100gに約0.85mg、さんま1匹(100g)に約0.68mg、バナナ1本(100g)に約0.38mg、さつまいも100gに約0.28mg含まれます。
参考レシピ


ビタミンB12
特徴・メンタルヘルスとの関連
ビタミンB12は、ヘモグロビンの合成を助け、正常な赤血球つまり血液をつくる助けをします。
血液細胞だけでなく脳神経など多数の機能や発達を正常に維持するために必要な栄養素です。
不足すると貧血、神経・精神症状が起こるとされています。成長期の若者では、軽度のビタミンB12不足が続くと、注意力や記憶力などの認知的な変化が見られることがあります。
多く含まれる食品

ビタミンB12は、あさりやしじみなどの貝類、レバー、魚に特に多く、乳製品、卵にも比較的多く含まれます。植物性食品(プラントベース)では栄養酵母(ニュートリショナルイースト)やシリアルなど栄養強化食品に含まれます。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 4.0 | 4.0 | 4.0 | |
成人女性 | 4.0 | 4.0 | 4.0 | 付加なし |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

手軽に取り入れやすい食品では鮭1切れ(80g)に約4.8µg、卵1個(60g)に約0.9µg、牛乳グラス1杯(200ml)に約1.0µg含まれます。
参考レシピ


葉酸
特徴・メンタルヘルスとの関連
葉酸もビタミンB群の一種です。ビタミンB12とともに血液をつくる助けをします。
造血や細胞を新たにつくる過程に不可欠であり、妊娠・授乳中の女性は特に補給が必要とされています。
水溶性のため多くは調理の過程で損失してしまうことからサプリメントでの摂取を推奨される場合もありますが、調理法の工夫で食品からなるべく多くとることも可能です。
臨床研究によると、うつ病の人の血中の葉酸は、そうでない人に比べて25%低いと報告されています。
多く含まれる食品

葉酸は、ほうれん草、ブロッコリー、アボカド、枝豆、いちごに多く含まれます。


18~29歳 | 30~49歳 | 50~64歳 | 妊婦(付加量) | |
---|---|---|---|---|
成人男性 | 240 | 240 | 240 | |
成人女性 | 240 | 240 | 240 | +240 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年度版)」

茹でほうれん草1/2束(90g)に約110µg、茹でブロッコリー70gに約84µg、枝豆100gに約260µg、いちご5粒(70g)に約50µg含まれます。
参考レシピ


ビタミンのまとめ
メンタルヘルスに関連があるとされるビタミンは、血液だけでなく、神経系に関与する栄養素が多く挙げられます。
ビタミンB群は互いに協力し合って役割を果たしており、水溶性は体内に貯蓄できないものが多いため、全体をバランスよく毎日摂取することが大切です。
『Neuropsychobiology』誌に報告されたある研究によると、推奨量の10倍に相当する9種類のビタミンを1年間補給したところ、男女ともに気分が改善されたといいます。
ビタミンとメンタルヘルスの関連は今後もさらなる研究が期待されます。
総括:気分の落ち込みの予防・改善に効果がある✖ 関連がある〇
ビタミンやミネラルについてひとつひとつの効能をみると、確かにこれらの栄養素の過不足がメンタルヘルスに影響していることは考えられます。
しかしエビデンスの話になると研究はまだ不十分です。
海外の記事によると、メンタルヘルスと栄養についての研究は、関連を示しているにすぎず、原因や効果を証明するものではありません。
摂取した栄養量を正確に測定する難しさを踏まえたうえで、メンタルヘルスへの利益は果物や野菜、精製していない穀物に含まれるビタミン・ミネラルの他、魚に含まれるオメガ3などの良質な脂質に関連があると示されています。
また、これらのすべての食品には抗炎症成分つまり鎮静成分が含まれています。
この作用がメンタルヘルスに関わるのではないかという見解もあります。
証明するには至らずも、不安や気分の落ち込みの原因として疑う価値はありそうです。
掘り下げるとキリがありませんが 、つまりは今回登場した食品をはじめさまざまな食品を日常的にバランスよく摂取するのが大切ということです。
Comments
Let’s talk about when you feel depressed.